大判例

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最高裁判所第三小法廷 平成6年(行ツ)83号 判決 1995年3月07日

上告人

特許庁長官

高島章

右指定代理人

増井和男

外六名

被上告人

株式会社日本健康増進研究会

右代表者代表取締役

枡田勇

右訴訟代理人弁護士

山上和則

松本克己

同弁理士

鈴木由充

主文

原判決を破棄する。

被上告人の本件訴えを却下する。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人増井和男、同飯村敏明、同河村吉晃、同今井廣明、同小栗昌平、同吉野日出夫、同中村友之、同関口博の上告理由について

一  原審の適法に確定した事実によれば、被上告人は、名称を「磁気治療器」とする考案についての実用新案登録を受ける権利を有限会社日本電磁波治療器研究所と共有し、右考案につき共同で実用新案登録出願をしたが、拒絶の査定を受けたため、右研究所と共同して右査定に対する審判を請求し、請求が成り立たない旨の審決がされたところ、被上告人は、単独で右審決の取消しを求める本件訴えを提起したものである。

原審は、被上告人が単独で提起した本件訴えも適法であるとして、本案につき判断し、右審決を取り消した。

二  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

実用新案登録を受ける権利の共有者が、その共有に係る権利を目的とする実用新案登録出願の拒絶査定を受けて共同で審判を請求し、請求が成り立たない旨の審決を受けた場合に、右共有者の提起する審決取消訴訟は、共有者が全員で提起することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解すべきである(最高裁昭和五二年(行ツ)第二八号同五五年一月一八日第二小法廷判決・裁判集民事一二九号四三頁参照)。けだし、右訴訟における審決の違法性の有無の判断は共有者全員の有する一個の権利の成否を決めるものであって、右審決を取り消すか否かは共有者全員につき合一に確定する必要があるからである。実用新案法が、実用新案登録を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するときは共有者の全員が共同で請求しなければならないとしている(同法四一条の準用する特許法一三二条三項)のも、右と同様の趣旨に出たものというべきである。

そうすると、本件訴えを適法とした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響することが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、前記説示に照らせば、被上告人の本件訴えは不適法として却下すべきである。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官園部逸夫 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信)

上告代理人増井和男、同飯村敏明、同河村吉晃、同今井廣明、同小栗昌平、同吉野日出夫、同中村友之、同関口博の上告理由

原判決には、以下に述べるとおり、審決取消訴訟における当事者適格の有無に関して、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。

すなわち、被上告人は、名称を「磁気治療器」とする考案(以下「本件考案」という。)について、訴外有限会社日本電磁波治療器研究所(同社は、昭和六三年一二月二〇日に社員総会の決議により解散し、平成二年一月三一日に清算が結了したとして同年二月二二日にその旨の登記を了している。以下「訴外研究所」という。)と共に、昭和五八年一一月一八日実用新案登録出願をしたが、昭和六一年九月五日に拒絶査定を受けたので、同年一一月一三日審判の請求をしたところ、特許庁は、この請求(昭和六一年審判第二二五六五号事件)を審理した結果、平成四年六月一八日右請求は成り立たないとする審決(以下「本件審決」という。)をした。そこで、被上告人が単独で本件審決の取消請求を提起した。これが本訴請求である。

ところで、本件のように実用新案登録の共同出願人に対してされた審決の取消しを求める訴訟は、固有必要的共同訴訟である(大審院昭和八年七月七日判決・民集一二巻一八号一八四九ページ、最高裁昭和三六年八月三一日第一小法廷判決・民集一五巻七号二〇四〇ページ、同昭和五五年一月一八日第二小法廷判決・判例時報九五六号五〇ページ)。

しかるに、原判決は、共有に係る実用新案登録を受ける権利の共有者の一人(被上告人)が提起した本件審決取消しの訴えは適法であるとした上で、本案について審理し、本件審決を取り消したから、原判決には前記の法令違背がある。

一 審決取消訴訟の合一的確定の必要と原判決の理由の不当性

1 本件のように、実用新案登録を受ける権利が共有関係にある場合、その考案について実用新案権を付与するか否かが当該共有者間で区々になることは、実用新案権という権利の性質上許されない(この点については異論がなく、原判決もこれを否定するものではない。)。したがって、実用新案法(以下「法」という。)は、共有者は他の共有者と共同でなければ実用新案登録出願をすることはできず((平成五年法律第二六号による改正前の法九条一項によって準用される特許法三八条)、これに反する場合には、その出願は拒絶され(平成五年法律第二六号による改正前の法一一条)、その登録は無効となる(法三七条)。)、共有に係る実用新案権について実用新案権者に対し審判を請求するときには共有者全員を被請求人とし(法四一条によって準用される特許法一三二条二項)、実用新案権又は実用新案登録を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するときは共有者全員が共同して請求しなければならない(法四一条によって準用される特許法一三二条三項)と規定している。すなわち、実用新案登録を受ける権利が共有に係る限り、実用新案登録出願あるいは審判の請求について、共有者全員が一体としてこれに当たらなければならないのである。このような規定は、共有者間において権利を合一にのみ確定させるという要請を手続的に反映させるため設けられたものである。

たしかに、法は、審決取消訴訟の原告適格について特許法一七八条二項の規定を準用する四七条二項の規定を置くのみであって、登録を受ける権利が共有に係る場合の原告適格について規定を設けていないが、右のような合一確定の必要性からすれば、実用新案登録を受ける権利が共有に係る場合、共有者の一部の者が審決取消訴訟を提起することは許されるべきでない。

なお、前述のとおり、訴外研究所は、本件審決がされた平成四年六月一八日の時点では既に解散し、清算結了の登記まで経ているが、未だ本件考案に係る実用新案登録を受ける権利を有している(たしかに、訴外研究所は被上告人に対し、平成元年一月一〇日付けで右権利の持分を譲渡したことがうかがえるが、特許庁長官に対してその旨の届出がされていない以上、右持分譲渡の効力は生じていない(法九条二項によって準用される特許法三四条四項)ので、訴外研究所の清算は結了しておらず、その法人格は存続していると解される(最高裁昭和三三年五月二四日第一小法廷判決・刑集一二巻八号一六一一ページ及び最高裁昭和三六年一二月一四日第一小法廷判決・民集一五巻一一号二八一三ページ参照)。)。したがって、訴外研究所が清算結了の登記を経ている等の事情は、右の検討結果に何の変更を来すものでもない。

2 ところが、原判決は、実用新案登録を受ける権利が共有関係にある場合に実用新案登録出願手続や審判手続が共同でされなければならないからといって、直ちに審決取消訴訟を固有必要的共同訴訟ということはできないとした上、共有者の一部の者の提起した審決取消訴訟が適法か否かは、実用新案権を付与するかどうかについての判断が共有者間で区々になるか否かによって判断すべきところ、審決取消訴訟においてその請求が認容された場合はもちろん、棄却された場合にも右の判断が区々になることはなく、権利の合一確定に何らの不都合はない旨判示し、その理由として、①共有者の一部の者が審決取消訴訟を提起した場合、審判手続が固有必要的共同審判手続とされていることにかんがみると、共有者全員の関係で審決の確定が遮断されるし、②その訴訟において棄却判決が確定すれば共有者全員の関係で当該審決の瑕疵のないことも確定し、認容の判決が確定すればその判決の効果は他の訴えを提起していない共有者に及ぶ(行政事件訴訟法三二条一項)から権利の合一確定に支障はないとする。

しかし、①審決取消訴訟は、審判手続とは別個の純然たる司法手続であるから、審判手続が固有必要的共同審判手続とされているからといって、共有者の一部の者が訴えを提起しさえすれば他の共有者に対する関係で当然に審決が確定しないことにはならない(むしろ、原判決は、右の限度において、審決取消訴訟が固有必要的共同訴訟であることを前提としているといえないでもないが、そうだとすると、審決取消訴訟が固有必要的共同訴訟ではないという原判決の結論と矛盾することとなる。)。②また、原判決は、共有者の一部の者が提起した審決取消訴訟において棄却判決が確定したときは、それによって訴えを提起していない他の共有者の関係でも審決が確定すると説示しているが、この点も全く根拠がない。結局、共有者の一部の者が審決取消訴訟を提起したとしても、他の共有者については出訴期間の経過により審決が確定すると解するほかはないから、共有者間において権利の存否は、必然的に区々になる。

したがって、原判決の説示は、誤った前提に立ったものであって、到底採り得ない。

3 以上述べた結論は、既に判例として確立している。すなわち、前掲最高裁判所昭和三六年八月三一日第一小法廷判決は、実用新案登録の共同出願人の一人が登録出願拒絶査定に対する抗告審決の取消しを請求した事案につき、「本件審決に対する不服の訴において、審決を取り消すか否かは、登録を受ける権利を共同して有する者全員に対し、合一にのみ確定すべきものであって、その訴は右権利者が共同して提起することを要する」とし、また、最高裁判所昭和五五年一月一八日第二小法廷判決も、「実用新案登録を受ける権利の共有者がその共有に係る権利を目的とする実用新案登録出願について共同して拒絶査定不服の審判を請求しこれにつき請求が成り立たない旨の審決を受けたときに訴を提起して右審決の取消を求める……訴において審決を取り消すか否かは右権利を共有する者全員につき合一にのみ確定すべきものであって、その訴は、共有者が全員で提起することを要する必要的共同訴訟である」と明確に判示しているところである。

二 共有に係る実用新案登録を受ける権利の法的性格と原判決の理由の不当性

1 原判決は、共有に係る実用新案登録を受ける権利の法的性格を民法上の「共有」であり、審決取消訴訟の提起を実用新案登録を受ける権利の保存行為(民法二五二条ただし書)に当たるとし、共有者の一部の者が提起した審決取消訴訟を適法と解しても何らの不都合はない旨説示する。

2 しかし、共有に係る実用新案登録を受ける権利の法的性格は、以下に述べるとおり、いわゆる「合有」と解すべきものであり、これを民法上の「共有」と解することはできない。すなわち、実用新案権の対象である考案は、技術的思想の創作に係る無体の財産であり、その性質上分割することができないし、有体物と異なり占有(所持)ということを観念することもできない。また、有体物にあっては複数の者が同時に同一物を利用することは不可能か相当の制約を伴うのに対して、考案にあっては契約で別段の定めをしない限り数多くの者が同時に同一の考案を利用することができる。したがって、複数の者がこのような性質を有する考案に係る登録を受ける権利を共有している場合において、全く自由にその持分を移転するときは、共有者が変わることにより、その投下資本と関与する技術者の能力等が異なることによって、他の共有者の持分の価値に著しい影響を及ぼすことになる。そこで、法は、前述のように登録を受ける権利が共有に係るときは、登録出願や審判請求については共有者全員ですることを要するとしているほか、各共有者は他の共有者の同意を得なければその持分を譲渡することができない(平成五年法律第二六号による改正前の法九条二項によって準用される特許法三三条三項)し、実用新案権が共有に係るときは、各共有者は他の共有者の同意を得ることなくその持分を譲渡し又は質権を設定すること並びに専用実施権を設定し又は通常実施権の許諾をすることができない(法二六条によって準用される特許法七三条一項、三項)として、民法上の「共有」とは異なり、共有者の権利行使を一定の制約の下に置いている。このような実用新案登録を受ける権利は、民法上の「共有」とは異なり、各権利者にいわば「合有」的に帰属するものである。そして、右各規定によれば、この「合有」に係る権利の登録出願、審判請求、譲渡、質権の設定その他一切の管理処分行為はすべてこれを各権利者が全員でしなければならないことが明らかである。しかして、本件のような審決取消訴訟を提起することは、これを管理処分行為と同視すべきである。なぜならば、「合有」に係る実用新案登録を受ける権利の権利者の一部の者が審決取消訴訟を提起できるとするならば、前記のように実用新案権を付与するか否かが当該共有者間で区々になってはならない以上、その判決の効力は、勝訴、敗訴を問わず、他の共有者に対しても及ぶといわざるを得ないからである(もっとも、この判決の効力を理論的にどのように説明するかは極めて困難と思われるが、この点はしばらくおく。)。そうすると、被上告人は、単独で、その持分権に基づいて本件審決取消訴訟を提起することができないし、もとより「合有」に係る権利(数人が合同して有する一個の権利)そのものに基づいて本件審決取消訴訟を提起することもできない(なお、最高裁昭和四六年一〇月七日第一小法廷判決・民集二五巻七号八八五ページ参照)。

また、共有(「合有」)に係る実用新案登録を受ける権利の権利者の一部の者が審決取消しの訴えを提起したとしても、これをもって民法二五二条ただし書にいう保存行為に当たるということができないことは、前掲最高裁判所昭和五五年一月一八日第二小法廷判決が判示するところである。

以上によれば、原判決の前記説示を採用することができないことは明白である。

三 結論

以上のとおり、実用新案登録の共同出願人に対してされた審決の取消訴訟は固有必要的共同訴訟であり、そのうちの一人が提起した審決取消訴訟は不適法である。しかるに、原判決は共有者の一人である被上告人が単独で提起した本件審決取消訴訟を適法としたから、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背があり、破棄を免れない。

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